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札幌地方裁判所 昭和34年(行)6号 判決 1964年6月22日

原告 石川スエ

被告 国 外一名

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  一、原告訴訟代理人は

(一)  被告国が石川恒市に対し別紙第二目録記載の土地につき昭和二三年一二月二日にした買収処分が無効であることを確認する。

(二)  被告国が右土地について昭和二五年三月二〇日にした、右土地を交換により被告漆原良雄の所有とするとの処分が無効であることを確認する。

(三)  被告国は右土地について釧路法務局昭和二五年六月五日受付第二三八五号の所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

(四)  被告漆原良雄は右土地について右法務局昭和二五年六月八日受付第二六〇九号の所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

(五)  訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決を求め、

二、被告国代理人は主文と同趣旨の判決を求め、被告漆原訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求めた。

第二  原告訴訟代理人は請求原因をつぎのとおり述べた。

一(一)  原告の亡夫石川恒市はもと別紙第二目録記載の土地(以下本件土地という)を所有していたが、被告国は昭和二三年一二月二日自作農創設特別措置法(以下自創法という)第三条第一項第一号の規定により、右土地を農地として買収処分をした。

(二)  被告国は右買収後別紙第一目録(一)記載の土地から同第二目録(一)記載の土地を、同第一目録(二)記載の土地から同第二目録(二)記載の土地を、同第一目録(三)記載の土地から同第二目録(三)記載の土地を、各々分筆した上、本件土地について釧路法務局昭和二五年六月五日受付第二三八五号をもつて所有権取得登記手続をした。

(三)  被告国は昭和二五年三月二〇日自創法第二三条に基づき本件土地と、被告漆原の所有にかかる別紙第三目録記載の土地(以下本件交換地という)とを交換する旨の処分をし、被告漆原は本件土地につき釧路法務局昭和二五年六月八日受付第二六〇九号をもつて所有権取得登記手続をした。

二、しかしながら、右の買収処分にはつぎのとおり重大かつ明白な瑕疵があるので無効である。

(一)  本件土地の一部は宅地でありその他の部分は隣接地の居住者が勝手に菜園として耕作していたにすぎないから本件土地は農地ではない。

(二)  本件土地は自創法第五条第五項にいう、近く土地使用の目的を変更することを相当とした農地である。すなわち、本件土地の所在する鳥取町は釧路市に隣接しており、同市と本件土地を含む鳥取町の一部は既に昭和一〇年三月二六日に都市計画区域と決定され、同一六年二月二二日用途別地域および街路が指定されていたのであるが、昭和二四年頃には釧路市の人口は急激に増加するにおよび、同市はその東南部が丘陵地帯のため、本件土地の所在する北西地域に発展することが必定であつたので、本件土地は近く宅地化することが予想されていた。従つて本件土地は前記規定により買収の対象となる農地ではない。

(三)  本件土地の買収令書には、本件土地の表示として鳥取町六九番地の一三、一四、一五と記載されているが、右買収当時の昭和二三年一二月二日には右のような地番の土地は存在しなかつた。

(四)  また本件土地の関係者において買収令書上あるいは実際上買収の対象である本件土地をほぼ想定し得るとしても、本件土地は間尺をもつてこれを特定することはできなかつたものである。

三、また、前記交換処分はつぎのとおり重大かつ明白な瑕疵があるので無効である。

(一)  本件交換処分は前記のように無効な買収処分に基づいている。

(二)  農地の交換処分は自作農の創設を適正に行うため特に必要があるときにのみ行い得るところ、本件交換地の売渡しを受けた勝村良雄は本件交換処分以前に既に五町歩の農地の売渡しを受けていたのであるから、右にいう必要はなかつたものであり、本件交換処分は自創法第二三条第一項に違反する。

(三)(イ)  本件交換処分は、交換される小作地の所有者である被告漆原に対して交換に必要な指示がなされないまま行われたもので自創法第二三条第一項に違反する。

(ロ)  本件交換処分は右被告と鳥取地区農地委員会との間に交換に必要な協議がなされないまま行われたもので自創法第二三条第三項に違反する。

(ハ)  北海道公報第四五一四号に記載された北海道農地部長の通達は、自創法第二三条に定める農地の交換のための指示、協議についてともに書面の作成を要求している。しかるに本件交換処分は指示書および協議書が作成されずになされたものであつて右通達に違反する。

(四)  交換処分は交換にかかる両農地の地目、面積、等位等が相近似しなければならないところ、

(イ) 本件土地の地目は畑地であるのに対し、本件交換地は四反のみが畑地であるにすぎず、他は牧野、原野、河川用地である。

(ロ) 本件土地は九反三畝二三歩の面積を有するのに対し、交換地の面積は八反七畝二歩にすぎない。

(ハ) 本件土地は交換処分当時釧路市の市街地にあるのに対し、交換地は釧路市から所要約一時間、本件土地から約二〇キロメートル以上隔たつた僻地に所在し、その地価は本件土地の十分の一以下である。

(五)  昭和二二年六月二六日北海道庁告示第四四〇号によれば被告漆原の自創法第三条第一項第二号に定める農地の保有面積は八反歩であるのに、同被告に対し被告国は本件交換処分によりこれを超えて九反三畝二三歩の小作地の所有権を与えた。

(六)  農地の売渡、交換は自創法第一六条に従い、自作農として精進する見込みのあるものに売渡さなければならないところ、本件交換当時被告漆原には農業を営む意思はなく、昭和三一年には農地法第五条の許可なく本件土地を売払つた程であるから、本件交換処分はその適格を欠く者を相手方とした瑕疵がある。

四、以上に述べたように本件買収、交換処分はともに無効であるから、本件土地は石川恒市の所有するところであつたが、同人は昭和三二年二月八日死亡し、その配偶者である原告が同人を相続した。よつて原告は右買収、交換処分の各無効確認および右の無効な処分に基づく被告らの前記所有権取得登記の各抹消登記手続を求めるため本訴におよんだ。

第三  原告は被告両名の本案前の抗弁に対し本件交換処分が無効であることが確認されれば、本件土地の所有権は被告国に復帰し、農林大臣は農地法第八〇条により当然右土地を旧所有者またはその一般承継人に売払わねばならないから、本件土地の一般承継人である原告には本件交換処分の無効確認を求める利益があると述べた。

第四  被告両名代理人は本件交換処分無効確認の訴に対する本案前の抗弁として

本件交換処分は被告国と被告漆原との間になされたものであるから、仮に右処分が無効とされれば本件土地の所有権は被告国に復帰するけれども、その際農地法第八〇条を適用し本件土地を原告に売払うか否かは農林大臣の自由裁量に属し、原告としては右売払いを求めることはできないから、本件土地の所有権は右交換処分が無効となつても原告に直ちに、また必ず復帰するものではない。従つて原告には本件交換処分の無効確認を求める訴の利益はないと述べた。

第五  被告国代理人は答弁としてつぎのとおり述べた。

一、本件土地について原告主張のような買収、交換処分ならびに所有権取得登記手続がなされた事実は認める。

二、原告主張の本件買収処分の無効事由はすべて否認する。原告は本件土地について近く宅地化することが予想されたと主張するけれども、本件土地に家が建ちはじめたのは昭和三〇年頃になつてからのことであつて、本件土地の東側は今なお農地である。原告はまた、本件土地は買収処分当時存在せずその特定を欠いていると主張するけれども、本件土地に関する買収計画はもともと別紙第一目録記載の土地について立てられたのであるが、これに対し所有者石川恒市から買収目的地の一部除外が陳情されたので、鳥取町農地委員会は本件買収の目的地を右目録記載の土地から本件土地に縮減した上、石川恒市の代理人吉田直芳の立会いのもとに本件土地を測量し、その面積を算出して、買収処分を行なつたものであるから、本件買収処分は何ら瑕疵のない有効なものである。

三(一)  本件交換地はもと被告漆原の保有地として残されることとなつたのであるが、そうすると勝村良雄は在村地主の土地の小作人となるので、同人を救済するため本件交換処分が行なわれたものであるから、右処分は自創法第二三条第一項にいわゆる自作農の創設のため必要があつたものであり原告主張のような瑕疵はない。

(二)  原告主張の本件交換処分の無効事由中、交換両地の地目、面積、等位が近似していなかつたとの事実は否認する。本件交換地の大部分は勝村良雄が小作していた畑地、牧草畑であり、河川用地はその僅少部分を占めるにすぎず、しかも右の畑地は肥沃土であつて農地として価値の高いものである。また仮に被告漆原が右処分により取得した本件交換地がその保有面積を超過しているとしても、直ちに右交換処分が無効になるものではない。

第六  被告漆原訴訟代理人は答弁として、原告主張の本件交換処分の無効事由中、交換に関する指示、協議がなされなかつたとの事実は否認する。被告漆原は右交換処分の頃鳥取町新大橋通り三〇番地に居住していたが、高令の養母カナをかかえていてその所有地である交換地の耕作が不便であつたため本件土地との交換を鳥取町農地委員会へ申し出、その結果同委員会は被告漆原の親権者である右カナの代理人柿崎貞夫に対し交換に必要な指示をし、右双方間に交換の協議が成立したものであり、また指示書、協議書の作成は法定要件ではないから本件交換処分には何ら瑕疵はない。仮に右書面を作成しなかつたことが瑕疵であるとしても、これは重大な瑕疵ではないから本件交換処分を無効ならしめないと述べた。

第七  立証<省略>

理由

一、原告と被告国との間では、本件土地について原告主張のような買収処分ならびに交換処分および所有権取得登記手続がなされた事実は当事者間に争いはない。そして右事実は原告と被告漆原との間において成立に争いのない乙第一ないし第四号証、証人柿崎貞夫、佐久間清(第二回)の各証言、被告本人尋問の結果および弁論の全趣旨に照らしこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二、そこで本件買収処分の効力について判断する。

(一)  原告は本件土地は農地ではなかつたというけれども、成立に争いのない乙第六号証、証人新目末吉の証言により真正に成立したと認める乙第九ないし第一三号証、証人新目末吉、万年石丸(第一、二回)の各証言を総合すると、原告の亡夫石川恒市は昭和一七年頃本件土地を畑地として吉田直芳、万年石丸、新目末吉、大友、市原、加藤、神代、鎌田、白石、富名、砂川に各賃貸したこと、右賃借人らは本件土地を耕作し、いも、大根その他の野菜を作り、小作料を右石川の代理人吉田直芳を介して右石川にそれぞれ支払つていたこと、本件買収処分のなされた昭和二三年頃には本件土地上には一軒の家屋も存在しなかつたこと、以上の事実を認めることができる。右の事実によれば本件土地は小作農地ということができる。この点について、成立に争いのない乙第五号証によれば石川恒市は本件土地が宅地化しているとして鳥取町農地委員会に買収計画に対する異議申立をしたことが認められるけれども、いまだこれのみでは本件土地を非農地と認めることはできないし、また証人新目末吉、万年石丸(第二回)の証言によれば吉田以外の右賃借人らはいずれも専業農家ではなかつたと認められるけれども、右事実は本件土地が農地であるとの認定を何ら妨げるものではなく、他に右認定を動かすような証拠はない。

(二)  つぎに原告の、本件土地は近く宅地となるべき土地であつたとの主張について判断する。

成立にいずれも争いのない甲第四、第八号証、乙第六号証、証人新目末吉、万年石丸(第一、二回)、米原芳男、田元改善、大森吉広の各証言、被告漆原良雄本人尋問の結果および検証の結果(第一、二、三回)を総合すると、釧路市の人口は昭和二一年から同二三年にかけて年平均五九〇〇人強の割合で増加していたけれども、本件土地の所在する鳥取町の人口は同一八年から同二四年にかけて年平均三三〇人強の割合による緩慢な増加をみるに止まつていて、鳥取町自体の住宅地化はさほど促進されていなかつたこと、右鳥取町所在の本件土地は釧路市から大楽毛を経て札幌市に通ずる一級国道を、国鉄釧路駅から約三キロメートル旧市街地とは反対方向の大楽毛方面に寄つた地点から南西に約二〇〇メートル入りこんだ地域に存在すること、その地質は砂まじりの土壤ではあるが馬鈴薯、大根等を栽培することができること、本件買収処分のなされた昭和二三年当時には、本件土地から前記国道に出た地域には右国道沿いに数軒の家屋が、本件土地の北側に接続して所在する後記買収除外地には前記認定の本件土地の耕作者の住居約一二棟が、本件土地の南側には長屋二棟がそれぞれ点在していたけれども、本件土地上には一軒の家屋もなかつたこと、本件土地をも含めて釧路市、鳥取町には後記のようないわゆる都市計画が立案されていたのであるが、本件土地の区劃整理事業が発表されたのは昭和二七年のことであり、また本件土地の道路工事に着手されたのは昭和三〇年頃になつてからのことであること、そうしてようやくその頃から本件土地上にも家屋が建築されるようになつたこと、現在本件土地の大部分は住宅地となつているけれども一部分はなお耕作地であり、また本件土地の東側にはおよそ一町四方を超える広さの畑が今なお存在すること、以上の事実を認めることができる。右の事実によれば本件買収処分の行われた昭和二三年一二月二日当時、本件土地は、近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地には該当しなかつたといわなければならない。もつとも成立に争いのない甲第五ないし第八号証、乙第五号証、証人田元改善の証言によれば、本件土地に関しては昭和一〇年三月二六日内務省告示により都市計画区域の指定が、同一六年三月一九日都市計画街路の決定が、同年四月八日都市計画用途地域の指定がそれぞれなされたこと、また、釧路市と鳥取町とは昭和二四年一〇月一〇日合併したことを認めることができるけれども、一般に都市計画は長期の見通しをもつのが通例であり、そのため右計画のすべてが直ちに実施されるということは稀であるというべきであるが、証人田元改善、大森吉広の各証言によれば右認定の計画も昭和五五年を一応の目標としていたものであつて、右の計画そのものは計画当時机上のものにすぎず、いかなる部分が何時実施されるかは容易に予測できないものであり、結局人口増加の度合等により進行させるしか方策がなかつたものと認められるところ、鳥取町の人口増加の実態は前記認定のとおり極度に急増したものとはいえないのであるから、少くとも右計画中本件土地をも含めて鳥取町に関する部分は近く実施されるとは容易に予想できなかつたというべきである。また前記甲第八号証によれば前記認定の合併後の新釧路市内には約一〇〇〇町歩もの農地があつたのであるから、右合併によつても本件土地が近く宅地化するとは考えられなかつたと認められる。結局右計画、合併の事実によつても前記認定を覆えすには足りず、他に右認定を左右するような証拠はない。

(三)  原告は買収令書記載の鳥取町六九番地の一三、一四、一五という地番の土地は本件買収処分当時存在しなかつたと主張するけれども、そもそも農地の買収は一筆単位にしなければならないものではないと解されるところ、右番地の一三の土地は同番地の五から、同番地の一四の土地は同番地の六から、同番地の一五の土地は同番地の七から本件買収処分後に分筆したものであることは原告の自認するところであり、従つて本件各土地は買収処分当時土地として不存在であつたといえないとともに、買収の目的地が登記簿上各一筆の土地として表示されていなかつたからといつて本件買収処分が無効となるものではない。

(四)  原告はまた、本件土地は間尺をもつて特定できないと主張するけれども、一筆の農地の一部を買収するときには、買収計画樹立の経過、土地の状況等から、買収の目的地が一筆の農地の特定部分であることが関係当事者に知れわたつているときには、それをもつて買収目的地の特定として缺けるところはないと解されるところ、証人米原芳男、柿崎貞夫、万年石丸(第二回)の各証言、証人高田貢の証言およびこれにより真正に成立したものと認めるにたりる乙第一五号証を総合すれば、本件土地に関する買収処分はもともと本件土地およびその東北辺の接続地からなる別紙第一目録記載の土地について計画されたものであるが、右計画等について石川恒市から再三異議申立がなされ、また右接続地には前記認定の本件土地の耕作者の住居などがあつて農地以外の土地が含まれていたのでその部分を除外し、予め石川恒市の代理人吉田直芳、鳥取町農地委員会関係者等が立会つた上、土地家屋測量士である高田貢をして本件土地を測量させて本件土地の測量図(乙第一五号証)を作成せしめ、もつて本件土地の範囲を決定したことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると石川恒市は本件土地が右第一目録記載の土地のいかなる部分にあたるかということを知つていたといわなければならないから、本件買収処分には所論のような違法はないというべきである。

三、つぎに本件交換処分の効力について判断する。

(一)  まず被告双方主張の本案前の抗弁について案ずるに、本件交換処分が仮に無効であるならば本件土地の所有権は国に復帰することは明らかであるが、農地法第八〇条は農林大臣の自由裁量を定めたものではなく、右規定はいわゆる法規裁量規定にあたると解されるから、右の場合農林大臣は特段の事情のない限り農地法第八〇条により本件土地を旧所有者またはその一般承継人に売払わねばならず、他方旧所有者等は右土地の売払いを訴求することができるというべきであるから、本件土地の一般承継人である原告には交換処分の無効確認を求める利益があるといわねばならず、被告双方の右抗弁は農地法第八〇条は農林大臣の自由裁量を定めたものであるとの独自の見解に出たものであつて採用のかぎりではない。

(二)  原告は本件交換処分は無効な買収処分に基づき無効であると主張するけれども、本件買収処分は前段に認定したとおり有効であるから右主張は失当である。

(三)  原告は本件交換処分は自創法第二三条にいわゆる必要のない処分であると主張するけれども、証人佐久間清(第二回)、勝村ハジメの各証言を総合すると、本件交換地はもと被告漆原の保有地として残されることになつたのであるが、そうすると右交換地の小作人であつた勝村良雄は右交換地近隣地の売渡処分により既に五町歩の農地の売渡しを受けていたとはいえ本件交換地については在村地主の小作人となつて同人が従来耕作していた土地について自作農となり得ないこととなり、他方本件土地近隣の同被告所有地の小作人の中には佐久間清のように五町五反もの農地の売渡しを受けた者もいたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば本件交換地九反三畝余と本件買収地との交換処分は右勝村をしてその住居から近く集団化した五町九反三畝余の土地の自作農とせしめるものであつて、特にその必要があつたと認められるから、右処分には原告主張のような違法はない。

(四)  つぎに本件交換処分の指示、協議について案ずるに、証人柿崎貞夫の証言、被告漆原良雄本人尋問の結果を総合すると、被告漆原は昭和二三年頃本件土地に近い新大橋通り八丁目に居住していて本件交換地よりも本件土地を耕作する方が便利であつたので、その頃同被告の親権者漆原カナの代理人柿崎貞夫は鳥取町農地委員会に右両地の交換処分を願い出たこと、同委員会はこれを相当と認めて右柿崎に交換両地の所在、地番、地目、面積等を指示し、同人と交換の協議をした上本件交換処分をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。もつとも成立に争いのない甲第九号証によれば北海道農地部長は昭和二三年二月一八日農地の交換処分の指示、協議について書面を作成することを要望しているところ、成立に争いのない甲第二、第三号証および弁論の全趣旨を総合すると本件交換処分の指示、協議について右の書面が作成されなかつたことが認められ、右要望に沿わない瑕疵があるけれども、かような瑕疵は重大なものとはいえないから、本件交換処分を無効ならしめるものではない。

(五)  本件交換にかかる両地の近似性について判断すると、証人佐久間清(第一、二回)、望月実、勝村ハジメの各証言ならびに検証の結果(第一、二、三回)によれば本件交換処分当時本件交換地の大部分は畑地および牧草チモシーの種をまいて栽培している牧草畑であり、残余の小部分が堤防等の河川用地となつていることが認められ、右認定に反する証人岩田武志男の証言は採用できず、他に右認定を動かす証拠はない。そうすると土地に種をまきこれを栽培管理している牧草畑は農地にほかならないから、本件交換地の大部分は農地であり、これに若干の河川用地が含まれているからといつて、かような瑕疵は重大なものということはできない。

つぎに本件土地は九反三畝二三歩、本件交換地は八反七畝二歩の面積を有していることは原告の主張自体から明らかであるが、交換地の面積の近似性はその耕作に適すべき地質の具有性をも併せ考えて判断すべきところ、証人大森吉広、柿崎貞夫の各証言、検証の結果(前記各回)によれば本件交換地は阿寒川のそばの肥沃土質であるのに対し、本件土地は砂まじりの地質であるから右のような僅かの面積の相異は何らの瑕疵にもあたらないというべきであり、仮にこの点をさておきこれを瑕疵というとしても重大明白な瑕疵といえないことは明らかである。

また交換処分が都道府県農地委員会の裁定により強制的になされたのではなく、交換当事者の自由な意思の合致に基づいてなされた場合には、交換両地の等位の近似性にたとえ缺けるところがあつても、特段の事情のない限り右瑕疵は交換処分を無効ならしめることはないと解すべきところ、本件交換処分は前記認定のとおり被告双方間の協議の成立によつてなされたものであるから原告のこの点の主張も失当である。

(六)  原告は本件交換処分は被告漆原にその保有面積を超える農地を所得せしめるから無効であるというけれども、仮に右処分が原告主張のようなものであるとしても、保有面積超過の事実のみではいまだその瑕疵は重大明白ではないから、本件交換処分を無効ならしめることはない。

(七)  原告は被告漆原には本件土地の売渡しを受ける資格がなかつたと主張するけれども、同被告は交換処分の関係者ではあつても、その後に行われた売渡処分には何ら関係がないから、被売渡し適格は勝村良雄についてならばともかく、同被告については問題とはならないから原告の右主張は失当である。のみならず証人柿崎貞夫の証言、被告漆原良雄本人尋問の結果を総合すれば本件交換処分当時右被告は満一七才に達していて将来本件交換地或いはまた本件土地を耕作しようと思つていたと認められ、右認定に反する証拠はないから、右交換地を同被告に保有せしめ、後に本件交換処分により本件土地を同被告に帰属せしめた処分は適法なものであつたということができる。

四、以上説示したとおり本件買収処分および交換処分は無効なものとはいえないから、依然有効なものであり、従つて本件土地について被告双方がした所有権取得登記手続も有効なものといわねばならない。よつて右両処分の無効確認ならびに右登記の各抹消登記手続を求める原告の本訴請求はすべて理由がないから全部失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 間中彦次 大久保敏雄 柏木邦良)

(別紙第一―三目録省略)

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